宇宙に巨大なレンズを形成し、太陽光を一点に集めることにより、安価に部屋を暖房することができる装置について。 2010年10月23日 漫画 トラックバック:0コメント:2

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ブログタイトルと漫画が全くリンクしてないが、大丈夫か?
(って書きたいがために描いた感が非常に強い)



拍手ありがとうございますー!
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RECEPTOR 2010年10月11日 日記 トラックバック:0コメント:3

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プリン+チョコレート。

もしかしたら、ティラミス?
曖昧な記憶。曖昧な感覚。

僕は舌を伸ばし、確かめようとする。
その途端、ぎゅう、と全身が締め付けられる。
と同時に痛みを感じ始め、激しい違和感に襲われる。

目を開ける。

るきにゃんの陶酔しきった表情が間近にある。
るきにゃんの舌が僕の口腔内からゆっくりと離れていく。

ちょ!?
何してんだ!?

僕は驚き過ぎて声も出せない。
それがまるで漫画キャラみたいな反応だという自覚はある。

「おいしゅうございました」

るきにゃんが口元を拭いながら言う。
それもまた漫画キャラ的な振る舞い。
まあ、どっちかというと、悪い系キャラだけど。

「では、次は私が……」

視界の隅からピンク色の何かがやってきて、僕の上に覆い被さる。
頭が混乱していると、目の焦点どころか、思考の焦点も合わない。

ぬめぬめ。

と口の中にまた柔らかいものが入り込んできて、それが茶絵にゃんだと気付いた頃には既に遅かった。
ピンク色の茶絵にゃんのパジャマ。
それを押し退ける力は僕には無く、また、るきにゃんが始めたいたずらに抵抗する力も無かった。

●●

「いやなら、抵抗しないと」

ナースセンター。
コーヒーの匂い。塩素の匂い。そして、香水の匂い。
ディスプレイに映っているのは無機質なエクセルの画面。

茅さんはディスプレイから目を離し、僕の方へ体を向ける。

茅さんは僕たちを担当するナースさんであり、僕の文章を読んでくれる希有な優しい人でもある。

「イヤって訳じゃ、ないんですけど……」
「いやじゃないなら、楽しみなさい!」

直球。
間違えてはいない。
でも、それは一人の大人として、どうなのか。

「正直ね、私ね、いいと思うんだよね。
 君が相手だから、言っちゃうけど、羨ましいんだよね。
 あなたたちはさ、子猫みたいなんだよ。
 もう、かーわーいーいー、みたいな感じなんだよね。
 そんな3匹がさ、じゃれあってるの見てると、もう、
 あはー、って感じなんだよねえ」
「はあ」
「……もうさ、飼いたいって感じだよ」
「えっ!?」
「買いたい、でもいい」
「援助交際!?」
「解体でもいい」
「猟奇的な!?」
「痛い? 期待? 見たい?」
「お、落ち着いてください!」

前のめりになって、瞳の色が怪しくなる茅さんを僕は押し戻す。
その時、胸元の名札に『チーフ』と書いてあることに気付く。
茅さんって、役職があるんだ。

「取り乱しました」
「気をつけてください」

茅さんはクッキーの袋をピッと開き、中身を小皿に並べる。
クッキーは3枚。チョコレートが真ん中に埋没している。

「やっぱりさ、ルキアちゃんは、本当、問題児だよね……
 私たちの間でも結構話題になるよ。
 あの子は頭が良すぎる。でも、ある意味では悪すぎる。
 なかなかまともにコミュニケーションができない子」
「……そうですか?」
「あなたは同じ年齢だから、きっとあの子と共感できるんだよ。
 言葉じゃない部分での共感ができるんだね。
 好き。っていう言葉を言いながら、心の中ではものすごく嫌っている、とか。
 そういう部分を私たち大人はね、気づけないんだよね」
「……うーん」

あんまり、そんなことを考えたことはなかった。
僕としては、るきにゃんは直球すぎるタイプだと思う。
直球過ぎて、心配になるくらい。

「茶絵ちゃんは、あなたとルキアちゃん以外とはしゃべれない。
 しゃべろうっていう気がないみたい。
 難しいね。私も一桁年齢の時は、あんな感じもあったのかもしれない。
 全てが変でおかしいって思って、世の中のこと全てがわからなくなるっていう感覚。
 でも、そんなの、すぐに通過して、忘れてしまうからね……
 繊細すぎるっていうか。会話もできないくらいの繊細さ」
「……茶絵にゃんは、繊細っていうより、確かめたいんだと思いますよ。
 確かなものだけを、しゃべりたいっていう感じだと思います」
「確かなもの、ねえ?
 そんなもの、この世の中にあるのかな?」
「……」

……無いような気がする。
あるとすれば、それは言葉の上だけのものだ。
論理学的な、ルールの上でだけ成立する因果関係。
デジタルかつ、解像度の低い情報演算上でのみ成立する計算。
それ以外はみんな、アナログでぐにゅぐにょな曖昧な泥の上でそれらしく見えるだけの確かさ。

「確かさというのは、正規分布的なばらつきを容認した中で定義しなくてはならない?」
「ルキアちゃん的な言い方であれば、そうかも。
 でも、大人はそんなめんどくさい風には考えないよ。
 清濁併せ飲む。
 それができない人が、『異常』って言われて、ここに来るんだよ」

ここ。
新浜メディカル病院。
僕はまだこの病院の意味がよくわかっていない。

茅さんは机の上の書類箱から茶封筒を取り出し、指を鳴らす。

「さあ、本題に入りましょう。宿題、やってきたかな?」

僕は頷き、ノートを開く。


●●●●●宿題(1) 小説●●●●●

gakuさんの存在を知らない人はいない。

gakuさんは某MMO内のトッププレイヤーであり、トップ廃人でもあった。
ちょっとした車が買えるくらいのお金をアイテム課金に費やし、一日のほぼ全時間帯をキャラクタ操作のために投入した。
常に3人のキャラクタを並列で操作し、通常の3倍の速度で敵を殴った。

gakuさんの伝説はwikiに数多く記載されているので、ここでは詳しく書かないことにする。
gakuさんの廃人具合、日常生活の崩壊具合もまたwikiに数多く記載されているので割愛する。

●●

諸行無常の響きあり、と琵琶法師が歌い、兵士の亡霊が泣く。
栄えたものはいずれ滅びる。
その法則に従い、gakuさんの天下にも終わりがやってくる。

――俺は死ぬまでMMOをやるよ。
MMOをやらなくなったときは、死ぬときだ。

gakuさんはそう強がったが、所詮どこかから借りてきた言葉でしかなかった。
漫画キャラのような言葉は漫画の世界でしか成立しない。

大学院を中退してから10年間、引きこもって続けてきたMMO人生。
gakuさんは36歳になり、3つの方向から、MMO引退宣告を通達された。

(1)金銭的にMMOを続けることが不可能になった。
    →親からの仕送りが途絶えた。貯金もほぼゼロ。
     家賃、光熱費が3ヶ月滞納し、法的措置を勧告された。
(2)肉体的にMMOを続けることが不可能になった。
    →年を取り、若い頃のような無茶ができなくなった。
     体力の衰え、どんどんひどくなる腰痛、視力の低下、反射神経の衰え。
     最近はディスプレイを見ると頭痛がする。
(3)精神的にMMOを続けることが不可能になった。
    →MMOをやる気力がなくなった。モチベーションが高まらない。
     飽きた。本気が出せなくなってきた。

上記の3つは突然やってきたものではない。
昔から、ちょっとずつ、確実に、蓄積されてきたものだった。
だけれど、強引に無視し、押し返してきた。
やり方は色々あった。
酒、性的快楽、弱いものいじめ。
そして、自己陶酔。

自己陶酔のためにはある程度の荒行が必要だった。
妄想の世界に没頭し、現実の全ての感覚をMMOと同調させるにはある程度の奇行が必要だった。
まず、食べ物・飲み物はネットスーパーから購入し、部屋の中では常に全裸。
部屋の外には全く出ない。運動なんて勿論しない。
テレビを見る時間、風呂に入る時間なんて勿体なさすぎる。
そして、画面に映る自分のキャラクタに同調し、欲情し、世界を駈け巡る。
MMOに没入し、レアアイテムをコンプリートし、戦場を舞い、他のプレイヤーとの圧倒的なレベル差にうっとりとする。

正しく酔うためには、現実を見てはいけない。
現実とMMOの世界を相対化してはいけない。
液晶パネルの輝きだけを見なければいけない。
その先にある世界だけが本当の世界だと思わなければいけない。
脳味噌の表面でそう思うのではなく、本能レベルでそう思わなければならない。

――そんな欺瞞に満ちた生活がここまで続いていたのが奇跡だったのだ。

gakuさんはwindowsをシャットダウンする。
PCの電源を落としたのが何年ぶりなのか、思い出せない。

先日、突然、ネット回線が切れた。
それ以降、全く繋がらなくなった。
それが回線代の滞納によるものだと気づいたのは玄関に散らばっている大量の請求書からだった。
家賃も携帯も電気もガスも水も滞納していた。
それはすなわち、口座にお金がないということを意味し、それは親からの仕送りが止まったことを意味していた。

gakuさんは愕然とした。
始めは、強い怒りを感じた。
それは全身が焼けるような発熱を伴う『恨み』だった。
なんてことをしやがるんだ。
gakuさんは足下にあったテーブルを蹴飛ばした。
MMOの中であれば、そのテーブルは物理演算に従って天井まで吹っ飛び、大きな音を立てて四散するはずだった。
しかし、実際は5ミリメートルほど平行移動したくらいだった。
正確に言えば、ちっとも動かなかった。
gakuさんの足には大ダメージがあった。
激痛が走り、骨が折れたかと思うくらい、神経的な痛感が股関節まで響いた。

gakuさんは涙目になりながら、ゴミだらけの部屋の床に這いつくばった。
携帯電話を探そうとした。しかし、携帯電話はここ数年見たことがなかった。
タンスや机の引き出しも探した。全く見つからなかった。
とにかく親に電話をしなければならない。
gakuさんはそう思った。
なぜ、仕送りを止めたのか、殺す気か、と怒らなければならないとそう思った。
そうこうしている間にも、どんどんとMMOの世界は進んでいく。
自分だけが取り残されていく。その損失はどうしてくれるんだ。

(中略)

MMOを辞めたが、自殺することができない。
自殺は恐ろしく、しかし、生きることも恐ろしい。

(中略)

部屋を出ることすら出来ない。
外はあまりにも都会的で、きれいで、自分の居場所がない。

そして、まさか、と思っていた破滅が自分の現実にやってくる。

(中略)

●●●●●●●●

ここまで読んで、茅さんは目を上げる。
上記引用内の(中略)部分は本来はきちんと存在していることをここでは補足しておきたい。
しかしながら、大して面白くもない文章であることも自白しておきたい。

「もうさ、これ系の物語、意味ないんじゃない?」

茅さんは直球である。

「こういう、結論がわかりきってる物語、書いてる人しか楽しくないでしょ?」
「……後半、書いてても面白くありませんでした。でも」
「でも?」
「一度は書く必要があるだろうな、と思いました」

なぜならば、それは自分の物語でもあるからだ。
僕は本当はMMOなんて遊んだことがない。
MMOじゃなくても、何かに対してそこまで熱中したことがない。
だから、このように熱中して破滅する人生と僕は全く関係がない。
でも、なんとなく、気持ちは分かる気がするのだ。
現実から目を逸らして、気持ちのいい妄想の中、物語の中に逃避して、そして、気付いたらもう現実が崩壊しきっているときの気持ち。
それは、もしかしたら、今の僕の気持ちそのままなのかもしれなかった。

今の僕の生活は、この物語の彼ほどには崩壊してないけれど、似たようなものなのかもしれなかった。

だからこそ、僕は考える必要があった。
僕にとってのMMOを捨てる努力、覚悟をしなくちゃいけなかった。
物語の中で、結局、彼は死ぬ。
彼は妄想の中で、現実を見ないまま死ぬ。
それを不幸そのもののようにして書く。

遅かれ早かれ、決断をしないと僕もこうなる。
そういう自戒を込めて、彼を殺した。

「そういう物語はね、感情を表現した、とは言わない。
 感情の発露、と言うんだ。他人に読ませるものではない」

直球。

僕は涙目になる。
『他人に読ませるものではない』
確かに。そうだけど。
悔しさと寂しさと憎しみと悲しみがごちゃごちゃになって心の中をかき乱していく。

●●

読ませなきゃよかった。
書かなけりゃよかった。
生きてなきゃよかった。

●●

僕はぼろぼろと泣き始める。
感情の起伏が異常。
わかってるけど、止まらない。

僕は未熟で、空気が読めなくて、かっこつけで、
でもそのくせにかっこ悪くて、バカで、異常で、おかしくて……

一気にネガティブモードに突入する。

茅さんはそんな僕を置き去りにして、ノートをめくっていく。


●●●●●宿題(2) 小説●●●●●

伝家の宝刀、値段の付けようが無い幻の一品。

そう教えられ思いこんで長年使い込んできた銀色の剣が、実は隣町のディスカウントショップのバーゲン品であったことを知らされた戦士は1日寝込んだ。
戦士は今まで、自分の剣には神通力のようなものが宿ってると思っていた。
であればこそ、今日までの数多くの試練や絶望に耐え、這い上がってここまできたのだ。

自分の剣は偽物だった。
おもちゃのようなものだった。


●●●●●宿題(3) 小説●●●●●

外山ポニョが岡田フンスの裏切りに気付いたのは1里後ろで控えていたはずの大川コナンの撤退を伝言隊から報告された時だった。
伝言隊は大川の陣が焚き火の跡を残した以外はきれいさっぱり何も残さず、新潟と長野の境目から姿を消したと外山に伝えた。

外山の兵は昨日の村上ククリとの激戦で消耗し、8000を残すのみだった。
食料も底をついていた。
度重なる行軍もあり、兵達の疲労と不満はピークに達していた。
そこに追い打ちを掛けるような、岡田の裏切り。
もはや、外山の軍はあらゆる意味で崩壊寸前だった。

一方、村上は小田からの援軍4000を得て、体勢を立て直しつつあった。


●●●●●宿題(4) 小説●●●●●


食虫花。

ある花はフェロモンで虫を誘い込み、罠で捕らえて養分にする。
胃みたいな部屋に閉じこめたり、触手にくっつけたり、板ハサミで潰したり、色々なバリエーションが存在する。

上記のような猟奇的な手段を使わない花も存在する。

雌そっくりの花弁で雄を誘い、雄が疑似性交しているときにその背中に花粉をくっつけて運搬させるとか、
雌そっくりの種子を雄に運搬させ、雄に疑似性交させることで種子の外皮を破れさせるとか。

人間から見ても、ちょっと気持ちの悪い、この悪魔的なシステム。
これは植物と虫との長い長い歴史の積み重ねによって生まれた、不思議で妖しい、魅惑の関係性でもある。

●●

ここで、『そうだ。このシステムをお金儲けに使えないだろうか』と考えるのが人間のしたたかさである。
おそらくは数千年前から、この企みが営まれている。
具体例はここでくどくどと挙げるまでもないであろう。
手を変え品を変え、合法と非合法を行ったり来たりしながら、フェロモン商法は今日も発展し続ける。

●●●●(1)●●●●

【超絶陳腐な古典SF風解釈】

彼、彼女は月額課金制アンドロイドである。
彼、彼女は現実のどんな男、女よりも性的で知的で働き者でやさしい。

課金システムは下記の通り。

初期費用:無料
初めの1週間:無料
1週間~1年:月額5800円
1年~:月額8800円

月一回のメンテナンス:無料

以上。

動力がどうだとか、性格・外観がどうだとか、
そういう細部描写は今更不要であろう。
ご想像通り、色んなバリエーションが有り得、好みが有り得るだろう。
また、人工知能がどうだとか、男性女性論だとか、ロボット3原則だとか、
そういう話の展開もまた今更不要であろう。

とても魅力的なアンドロイドがいて、それを売るという商売がある、という事実が何よりも重要だ。

これを消費者側と、供給者側の2つの視点から見ていきたい。

まずは消費者側。
一番最初に問われるのは倫理観であろう。
現実の生物の人間と見分けがつかず、能力的には人間を上回ってすらいるアンドロイドをどのように扱うのか。
労働力として見れば、これほど安くて有能な人材はいない。
アンドロイドに創造性があれば、人間のやるべきことは管理職くらいなものだ。
言うまでもなく、ここらへんの話題は古典SFの中で語り尽くされている。
・人間は知的な労働しかしなくてもよくなる。
・人間はやることがなくなる。
・人間に負荷がなくなり、劣化する。
・アンドロイドの反逆、人間を支配下におく。
・甘やかされて太って脳味噌がたるんだ王様は、筋肉質な召使いに刺し殺される。

しかしながら、そういう方向の物語は本稿の領域ではない。
だけれど、意識裏に常駐させておくべき本道にあるに違いない。

ここでは、まだこのアンドロイドはそういうレベルにまで達していないことにする。
用途としては、人の世話をするメイド的な役割を行う程度とする。
社会背景としては2010年現在の風景、そこにドラえもんのようなアンドロイドが存在する程度の世界。

この場合、そのようなアンドロイドが普及するかどうかの境界線は割とシビアであるに違いない。
コスト的なことではなく、『人間として受け入れるかどうか』という倫理観の問題が重く存在する。
食器洗い機や布団乾燥機といった単機能な機械であれば、コストと利便性が一定レベルをクリアすれば普及する。
普及を妨げる要因が存在しない。
しかし、『なんでもできる』アンドロイドはコストと利便性だけで導入してよいのかという葛藤がある。

普及までの過渡期仕様として、いかにもロボットロボットした外観というものが好まれるかもしれない。
男としては、絵に描いたような美少年アンドロイドが家にいて、
毎日毎日、妻や娘がデレデレしていたら面白くないであろうし、当然、その逆もあるだろう。
また、人間に似すぎている、というのは気持ち悪さも生みかねない。
それは『死の谷』という表現技術の問題ではなく、アンドロイドの実存に対する懐疑から生まれる。


●●●●●●●●●●●●●●

「……ふふ」

茅さんは僕のノートを読みながら笑う。
僕は一通り泣いて、なんで泣いてたのかを忘れてぼけーっとしている。

「あなたは、いったい、何を考えたいのかな?」

僕はいったい、何を考えたいのか。

(1)情報というものに対する不信感について。
(2)資本主義の欺瞞について。
(3)戦うということの無意味について。
(4)それでも人間は戦うであろうという悲惨な運命について。
(5)他人を騙すための知恵について。
(6)騙され続けてきた過去への憤懣について。
(7)もう、外界のことなんか絶対信用しないという思いについて。
(8)もう、情報なんかいらない、という思いについて。
(9)けれど、情報がないと、おかしくなるであろう自分の矛盾について。
(10)僕もまたキレイな精神ではないということについて。
(11)僕の手もまた血で濡れているであろうことについて。
(12)僕もまた異常だということについて。

「そうそう。で、どうなの? その先には何があるの?」

茅さんは問う。

「その病識の先が知りたいし、その先にしかあなたを救う何かはないんだよ」

病識。
病人が、自らの病気について意識すること。
僕の病気とはなんだったのだろうか。
情報依存。情報中毒。情報アレルギー。
でも、それは、違うのでは?

僕の病気は、それとは違う、もっと根源的な『何か』なのでは?


僕は断片的な小説をいくつもノートに書く。
だいたい、同じような内容になっている。
僕は自分の感情が『小説モード』になるような内容を選んで書いているからだ。
結末もだいたい似ている。

・少しでも良い人生にするにはどうするべきか。
・こういう風に生きているとダメになる。
・こういう風に生きれば、少しはましになる。

僕の目の前には常にいくつかの選択肢が存在する。
そのなかで、どれを選べばより良いのか、それはだいたいわかる。
正しい選択肢を選べば、人生は良くなる。

僕は暴力を振るうべきではない。
僕は無駄に眠るべきではない。
僕は適度に運動するべきだ。
僕は勉強をしたほうがいい。
僕は物事をもっともっと深く考えた方がいい。

僕は人に親切にしたほうがいい。
僕は正義についてもっとよく考えた方がいい。
僕は資本主義、経済についてよく考えた方がいい。

僕は快楽におぼれるべきではない。
僕は人を悲しませるべきではない。
僕は僕だけの利益にこだわるべきではない。

「ねえ。少し、話をシンプルにしましょう。
 あなたは私に自作の小説を読んでほしいと思ってる。
 私は読んであげている。
 私はあなたの心の強さを信じて、ちょっときつい感想を言ってあげる。
 もちろん、言おうと思えば、いくらでも誉めてあげられるし、逆にけなすこともできる。
 でも、それじゃどちらも可哀想だから、私は本当のことをあなたに言う。
 『あなたの小説は面白くないし、それに、何か大事なことが書いてない』
 これはあなたにとっての壁、だよね。
 この壁を乗り越えることで、あなたは成長するし、同時にあなたの病気の治癒そのものになる。
 これだけについて、考えるってのもいいんじゃない?」

『面白さ』?
『何か大事なもの』?

僕はそれらの言葉の意味がよくわからなかった。
僕は茅さんの表情を伺おうとした。
茅さんはちょっと困ったような顔で僕を真っ正面から見ていた。

僕の書いていて、そしてこれから書こうとしている物語に、それらは欠如している。
茅さんはそれに気付いていて、僕にそれを意識しなさいとアドバイスする。
欠如しているのは、『面白さ』と『何か大事なもの』であると言う。
でも、僕にはそれらがわからない。
言葉としてはわかるけど、まるで意味が読みとれない。
アラブ語が書いてあるのはわかるけど、読めないみたいに。
意味はわかるけど、本当の『意味』はわからないみたいに。

その瞬間。
僕は僕の病気の輪郭が見えた気がした。

僕には、その『何か』を感知する受容体が無い。
僕には、何が、重要な要素を感知して意識するためのセンサーが無い。
それは僕の書く小説に如実に現れている。

レセプタ。
茅さんの背後のエクセルの一つのセルにそう書かれている。

レセプタの欠如。
レセプタの異常。

レセプタの過敏。

それを自覚させるために、情報を遮断させる。
異常を自覚させるために、外乱をゼロにする。
自分の言葉だけで生きることで、自分の言葉の不足と異常を知る。

僕に足りないものは、それが足りないということを感知するためのレセプタ?

治療。
病気。
病院。
情報の遮断。

病識。

茅さんはクッキーをぱくっとほおばる。
そして、僕の口にもひょいっと入れる。

「今日はここまで。
 泣かせちゃってごめんね」

口の中に甘さが広がっていく。
もしも、甘いということを感じるセンサがなかったら、僕はどんな感情を抱いてた?

「……僕の中の異常は……」
「はいはい。もうそういう話はおしまい!
 さあ、いっぱいクッキーを食べて、もっと成長しなさいね」

成長。
こんな僕も日々、成長していくんだろうか?
せめて、曲がっていかないようにしよう。
せめて、まっすぐ、それらしく、幹を伸ばしたい。
どこへ向かって?
なんのために?

異常を抱えたままで?

●●●●

僕はノートを抱えたまま、ロビーのソファーに座っていた。
60インチのプラズマテレビがあった。
そこには環境映像が流れていた。
鰯の群れが白い腹をきらきらと輝かせながら、青い海の中で舞い泳いでいた。
次に映ったのは氷山だった。
氷点下の海の上に鋭角な輪郭を幾つも備えた氷山が浮かんでいた。
氷山はゆっくりと流れているようだった。
背景は白い空だった。
一面が雲なのか、それとも白い空なのか、僕にはわからなかった。

僕は目をつぶった。
僕がこうして無駄に時間を潰している今このときも、これらの自然は自然らしく存在しているに違いない。
それに対して、意味を見いだす、というのも無理矢理な話だ。
ただただ、自然は自然らしくそこにある。
そういう流れからすれば、僕もまたこうして僕らしくここにある。

僕は屋上に行くことを妄想する。
実際には屋上へは行けないようになっている。
妄想の中、僕は屋上から外の景色を見る。
それはおそらく、絶景であり、しかしながら、どこかで見たことのあるような普通の町並みでもあるだろう。

古びた柵に手を置いて、下を見る。

人がまるで蟻のように見えるだろう。
病院に出たり入ったり、車に乗ったり降りたり。
車もまたマッチ箱のように見えるだろう。
人々の営み。人間社会。現代社会。
もちろん、こんな感傷は食傷的すぎる。

この世界を救うような勇者様は存在しない。
この世界を悪くした魔王も存在しない。

きれいごとばかり言っている僕も、今朝、るきにゃんのスリッパを踏んでしまったことを謝ってない。
ちょっと変な皺がついたけど、るきにゃんが見てなかったから黙っていよう、という悪巧み。
るきにゃんもるきにゃんで、僕のノートを盗み見ている。
そのノートの中で、僕はるきにゃんにセクハラしまくってたけど、それはるきにゃんに対する攻撃でもあったのだった。

屋上から飛び降りるシーンを妄想する。

柵から手が離れる。
僕の背後には何もない。
僕の頭を重力の手がやさしく包み込む。
僕は青い空を見る。
身体が無重力を検知する。
それは自由落下の始まりであり、脳味噌の原始的な部分が激しく警告を発する。
危ない!
危ない!

危ない!

一気にアドレナリンが最大値を突き破る。
脳味噌が真っ赤に発熱する。
色んな回路が繋がったりブチ切れたりする。
結果、色々なイメージが頭の中で炸裂する。
こういうのが、走馬灯っていうのか。
4秒後、僕は絶命する。
痛みを感じる暇もない。
後悔するにもたったの4秒では時間不足だ。
僕は無に包まれる。
でも、無を感じるということはない。
何かを感じるための受容体が存在しない。

僕という存在はなくなる。

――ここで、逆再生開始。
僕の身体は宙に浮かび上がり、4秒後、屋上に立つ。
カメラは僕をいつも側面から映す。
僕は柵を乗り越え、屋上の床に力無く崩れ落ちる。

僕は生きている。

空は青く、落下したときに見た空と全く同じだった。
僕の頭を包み込んだ重力の握力がまだこめかみに残っている。

死んだらおしまい。

るきにゃんお得意の正規分布の山が僕の脳裏に浮かぶ。
生まれて山を登り、やがて下ってゼロに戻る。
人生はこういう曲線を描いてゼロに戻る。
横軸は時間。では、縦軸は?

生命力。

生命力?
僕はなぜか即答してしまった僕の心に問い合わせる。
本当に、そうかな?

僕の心は回答を修正する。
(生命力)
括弧で括られる。
すなわち、参考、あるいは、それに類似するもの、という意味に変わる。
なるほど。
まあ、いいか。それで。

僕は立ち上がる。
目の前のテレビが夕日のサバンナを映している。
ライオンが逆光の中、ゆっくりと歩いている。
ライオンもまた、夕日にペシミズム的な思いを抱いているかのように見えた。

●●

部屋に戻るとるきにゃんが踊って歌っていて僕の今までの抑制的な思考パターンが色褪せる。
裸の上にシーツを絡めたセクシャルな衣装。
茶絵にゃんも同じ格好で横で手拍子。

僕が音も無く呆然としていると、るきにゃんが歌いながら手を伸ばす。
手のひらを上にし、僕の手のひらを要求する。
僕は、求められるがまま、手のひらを重ねる。

るきにゃんのエスコートが始まり、僕はベッドの上に押し倒される。

「さあ、思考実験の始まりです」
「ぜ、全然思考実験じゃないし!」
「思考実験その1! もしも、私たちがアイドルグループで、その中でぐちゃぐちゃな愛憎劇が
 繰り広げられていてしかもそれが臨界点を迎えていたら!?」
「ちょ」

るきにゃんは乱暴に僕の服を脱がしていく。
茶絵にゃんも一緒になって脱がしていく。
そのやり方に容赦がない。
迷いがない。
茶絵にゃんが僕の顔を押さえつけ、僕の唇を舌で割る。
ぬめり。粘着性のある温かさ。
舌はあんまりにも神経刺激受容の優先順位が高すぎる。
一瞬にして性的な色彩に頭の中が圧倒されて僕は脱力してしまう。

やばい。
こんなやばい子だったのか、茶絵にゃんは。

気づけば僕はシーツだけを身体に纏っている。
シーツの硬質な肌触りとその通気性の良すぎるスースー感が僕の警戒心をもの凄く喚起する。

茶絵にゃんの舌遊びがまだ続いている。
もうどうでもいいや……、と僕は成すがまま状態。
ふいに、僕の頬に吐息が掛かり、次いで、るきにゃんの頬が僕の頬と接触する。

るきにゃんの舌が入ってくる。

今、僕の口の中に、2つの舌がある。
もう、なんだかよくわからない。
呼吸が難しい。それ以上に、もう思考がまとまらない。
酩酊状態。ぴりぴりと背筋に微電流が走り続けている。

ちゅくちゅくちゅく、ちく。

3人の前髪が擦れ合う音がやたら大きく聞こえる。
髪の毛一本一本の繊維がやたら太く感じる。
危ない橋を渡ろうとしている。
あるいはもう渡り終えてしまった。
ときめき。胸騒ぎ。恋心。
そんな言葉たちが児戯に思える。
でも、もしかしたら、今のこういうことが児戯なのかもしれない。
わからない。
これはフラグなのでは。
なんのフラグ? わからない。
わからないことだらけ。冒険。エクスプローラー。
少なくとも、僕たちにとっては。

ゆっくりと舌が離れていく。
3つの舌が内角120°の方向へと離れていく。
透明な糸が不格好な3角形を描いて、やがて途切れていく。

僕は恥ずかしい。
とにもかくも恥ずかしい。
心臓がものすごく大きく脈打っている。
頬と耳が燃えてるみたいに熱くなっている。

茶絵にゃんは真っ赤な顔で、うつむいている。
衣装がはだけて、ほとんど全部見えている。

るきにゃんも真っ赤になって、口元を手の甲で隠している。
るきにゃんのちょっと大人な胸もピンク色に染まっている。

しばらく、僕たちは惚けていた。
いったい、何をしてしまったのか、各々、考えているみたいだった。
静かで厳かな時間。

どれだけ時間が経った後か、
衣擦れの音が聞こえて、るきにゃんが小さく呟いた。

「……私、もう、お嫁に行けないかもしれせん」
「なにを今更」

僕はすぐにつっこむ。
手の甲をぺちっとるきにゃんの肩に当てる。
るきにゃんは、にゃっ、と鳴き、身体を縮こませる。

「せ、責任、取ってくださいね」
「こっちこそ取ってほしいよ! 責任!」

と、つっこむ。
と同時にチャイムが鳴り、夕ご飯の時間になる。

僕たちは急いで慌てて服を着始める。




拍手ありがとうございますー!

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2010年10月02日 日記 トラックバック:0コメント:0

インターネットから離れて、早1年。

というか、実質的には『液晶』から離れている。
すなわち、パソコンもテレビも携帯電話も自動改札すら見ない生活をしている。

――情報中毒。

それが僕の病名であり、死因でもある。
具体的には、情報を食べ続けたがゆえに、情報過多で死亡した。
あるいは、情報を浴び続けたがゆえに、情報過敏になって死亡した。
情報メタボリック。情報アディクト。情報被爆。
情報化社会の本当の意味は終焉を迎えてからやっとわかる。

僕は死んで、次の日の朝には目を覚ます。
カーテンが閉まっていて薄暗い部屋の中で無意識に携帯電話を探している。

しかしながら、僕の手は虚しく中空をさまようばかりである。

「……ふふふ」

隣のベッドで、るきにゃんが笑う。

「まだまだ、毒が抜けきるまでには時間が掛かりそうですね」

●●

突然だけれど、僕は漫画を描くことを妄想する。
例えば、僕がブログを作っているとする。
ブログに何を掲載するかということになると、やっぱり漫画かなあ、と思う。

一番てっとり早いのは、二次創作であろうか。
今であれば、けいおん! とかの漫画が旬なのではないか。


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と、いうような漫画を描いて掲載したら、なんだかブログらしいだろうか。
あるいは、なんの説明も無しに唐突にオリジナルな漫画を描くというのもありだろうか。


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しかしながら、妄想の中だけのブログ運営とはいえ、ここで悩む。
こんな感じでブログを作って運営していくことに、どんな意味があるのだろうか?

自己満足?
誰かに誉められたい?

うーん。
どれもしっくりこない。
自己満足できるほどの品質に到達できる技量があるのなら、こんな小さなことで悩んでない。
そしてまた、誰かに誉められたことを素直に受け止められるような『純粋無垢な心』も僕は持ってない。

じゃあ、なんのために?
僕は悩む。
悩む前に妄想の中だけじゃなくて本当に漫画を描く練習をしたほうがいいんじゃないかと思うけど、
実際には全然描けないことがわかっているので練習はしない。
僕は根っからのダメ人間なのである。

僕は理想論ばかりを考える。
そして、るきにゃんがパジャマを着替え始めるころ、僕は僕なりのブログ指針樹立に到達する。

●●

僕のブログは下記の4つの条件を満たすことを目的とする。

(1)永続的であること。
(2)健康的であること。
(3)建設的であること。
(4)根源的であること。

例えば、先ほどのけいおん! の漫画は『永続的』だろうか?
たぶん、違う。
僕はおそらく、未来的にはけいおん! を描かなくなる。
理由はいくつもあるだろうけど、結果的にはそうなる。
そういうのは、『永続的』ではない。
だから、僕のブログにはふさわしくない。

ふさわしくない例のひとつとして、僕はもう一つ、漫画を妄想する。
その漫画はえっちな内容を含んでいる。
というより、えっちな内容を語るために描かれている。
そういうものを掲載し続けるブログというのも、世の中には存在する。

従順なメイドさんに関係を迫る漫画を掲載し続ける、とか。


101001yg.jpg


でも、あくまで少年漫画的な描画規制にこだわってる、みたいな。

これは、『健康的であること』という指針に反する。
いやいや、生き物の本能に従うことは健康的です、とか僕の隣の人も言いそうだが、
そういう変な理屈は僕の中にはない。

と、ここまで考えて、僕はひとつ気付いてしまう。

その『気付き』は非常に大変なことであり、妄想の中だとは言え、僕のブログの存亡に関わる。
その『気付き』とは、下記の通りである。

漫画を描く以上、『永続的』かつ『健康的』かつ『建設的』かつ『根源的』を満足することは無いのでは?
ということである。

なぜ、漫画では4つの指針を満足できないのか。
その理由は今の僕には明確に語ることができない。
それゆえに、ただの感覚的なものでしかないが、でも僕の中のスイッチはもう動いてしまった。

妄想の中だから、僕は僕の漫画を諦めることを躊躇せずに決定する。
漫画を描くのはやめる。漫画を掲載するブログを作ることをやめる。

かわりに文章を書くというのはどうであろうか。

●●

【ブログに載せるための文章案(1)】

●●

自分にだって幸せになる権利はある。

ミクはそう思った。
目の前には不潔で脂ぎった男が転がっていた。
それはまるで下水道の底に溜まっているヘドロの固まりみたいだった。
ミクは男を踏まないように大股で跨いでキッチンへ向かった。
ミクは右手に握りしめていた包丁の汚れをお湯で流した。
右手はまだ痺れていた。
右手にはまだあの瞬間の感触があった。
痛かった、重かった、熱かった、あの瞬間の感触がまだあった。
でも不思議と嫌な感じはしなかった。
ミクは自分の右手の平を観察した。
親指の付け根の皮がちょっとめくれていた。
きっとあのとき、包丁の柄が当たって擦れたに違いなかった。
同じく親指の付け根のもっと手首側のほうに白濁色の液体がついているのを見つけた。
ミクは慌ててお湯でそれを流した。
石鹸を使って念入りに洗い流した。
何度も何度も洗い、自分の皮膚の上から男の痕跡を完全に消そうとした。

――なんで男というのは、こんな気持ち悪い液体を出したがるのだろうか。

ただただ出すのが気持ちいいのだったら、人に迷惑を掛けないで一人で勝手に出していればいいのに。
なんで他人を傷つけてまで出したいと思うのだろうか。
ミクは不思議でならない。
出会ったときから、男はそれを出したがった。
まるでそれを出したいがために男はミクに近づいたのではと思うくらいだった。
男とミクはたくさん会話をした。
しかし、本当の意味でのコミュニケーションは一度もしていなかった。
男はとにかく出したがった。
ミクはそれが嫌だった。
嫌だということを何度も伝えたが、男には届かなかった。
男は目があり、耳があり、知能があり、ミクの言葉を理解しているようではあった。
ミクの心情を理解しているようではあった。
しかし、次の日には全てを忘れてしまったかのように男はミクに出そうとするのだった。

まるで何かのコンピュータープログラムのように、リセットして全てが初期設定に戻るとでも思っているかのようだった。
ミクから見れば、男がプログラムのようであった。
だけれど、男がミクをプログラムのように見ているようでもあった。

ミクは男を跨いで部屋に戻った。
カーテンを開け、窓に反射している自分の姿を見た。
真っ黒の夜空の中空に自分が浮いているように見えた。
クロスカーソルのような十字の光がミクの背後に規則正しく煌めいていた。
一つ一つのその車のヘッドライトが一人一人の人生そのものように見えた。
ミクは浮いていた。

私にだって、幸せになる権利はある。

そんな権利なんてお前にはないよ、という男の声が心の中から聞こえた。
そんな権利はお前にはない、お前はそんなことを考えなくてもいい、と声は続く。
そして、お前は逸脱しなくてもいい、と男は言い、ミクのスカートをめくりあげる。

男はミクの太ももと太ももの間に差し込み、そのまま出す。
出す瞬間、男の顔は老人のようになる。
それは死相そのもののようにミクには見える。
男は5秒近く、死んで、けだるそうに生き返る。
男はそのままミクを抱きしめて、好きだ、というような内容の台詞を言うが、それはあまりに矛盾過ぎて気持ちが悪い。

●●

【ブログに載せるための文章案(2)】

●●

―――桃色ボンバーマンの人生―――

キャバクラ嬢にはまり込む男の心理は私にはわからない。

『好みだから』とか、『好かれたから』とか、もっと大人な理由で、なのか、まあ、私の知る由は無い。
だけれど、星の数ほど量産されている物語のあらすじをなぞるようにして、
私の弟、桃色のボンバーマンはキャバクラ嬢にはまっていった。

毎週、いや、ほぼ毎日、彼女の店に通った。
そのうちに、彼女にマンションを買ってやり、一緒に住むようになった。
彼女には子供がいた。彼女はバツ1だった。
弟はそれでも関係なしに彼女を愛した。
彼女の生活費を出し、子供の教育費を出した。
弟のしがないサラリーマンの給料のほとんどが彼女に費やされた。

まあ、そのことについて、私がとやかく言う筋合いはない。

親戚、親族から変な目で見られても、咎められても、真顔で
「俺は本気で愛しているんだ。キャバ嬢うんぬんは関係ない」
とテレビドラマのような台詞を言うものだから、
まあ、そういうのもありなのかな、と変に納得するくらいなのだ。

彼女は、いかにも水商売という姿だった。
特別に美人というわけでもないが、華があり、艶っぽかった。
いい服を着て、エステで肌を磨き、ブランド品をいっぱい持っていた。

地味で田舎くさいただのおっさんでしかない弟には彼女が女神様のように見えるのかな、と私は思った。

私はあのどんくさい弟と、このキャバ嬢が性行為をしているシーンを妄想した。
きっと、それは女教師と男子生徒のような、不釣り合いな、しかし淫美な情景なのだろうと思った。
それだけが弟を彼女と結びつけているとはさすがに思わないが、だけれど、
弟にとってはどんな金銭的な代償よりも代え難い関係なのかもしれないと思った。

彼女と出会うまで、弟はオタクだった。

いつも漫画を読んでいた。
いい年齢になってもアニメを見、アニメ雑誌、BDを買っていた。
いわゆる美少女モノのフィギュアやゲームも買いあさっていた。
少女漫画やライトノベルも山のように買い、休日になるたびにオタク系の店に行っていた。
声優のライブや同人誌即売会にも通っていた。
オタク系のブログを運営しており、せっせとレビューやライブ報告を更新していた。
びっくりするくらい高額なアニメセル画を買ったり、色紙を買ったり、まあ、よくぞそこまで、と思うくらい、
弟はオタク市場に散財していた。

だが、そんな弟がキャバ嬢にはまると、一気に脱オタク化した。

なにが弟をそうさせたのか、私にはわからない。
オタク文化に対する情熱はその程度のものだったのか、と変な意味であきれてしまうくらいだった。

弟は部屋をきれいにした。
オタク的なものを全て処分した。
インターネットを解約した。
弟自体の野暮ったい顔、体格はそのままだったが、生きざまとしては年齢相応になったのかな、と私は思った。

弟はちまちまと貯めていた財形貯蓄と夏のボーナスを全て注ぎ込んで、彼女に指輪をプレゼントした。
なんかのテレビドラマの展開そのまんまだな、と周囲を失笑させ、さらに驚くべきベタなオチとして、
キャバ嬢は指輪をもらった直後に遠くへと引っ越してしまった。

弟はその後を追おうとするが、教えられた住所は偽物で、弟は大人げなく号泣する。
ショックで立ち直れない弟はしばらく会社を休み、田舎のホテルを転々とする。

帰ってきた弟は、別人のように痩せ、老け、寡黙になっている。
人生に絶望し、疲れきった老人のようなその様相を見て、私は反応に困ってしまう。

初めっから、あんた、ただの金蔓だったんじゃないの?

と私が言うと、弟は、違う、と言う。

俺たちは純愛だった。

と言う。

でも純愛すぎて、彼女は耐えられなくなったんだ。

と言う。

ふふん、と私が笑うと、弟はため息をついて、言った。

たぶん、どんなに上手く語っても理解できないだろうな。
俺たちの純愛は物語の枠を超えている。
物語として翻訳できないレベルの純愛だから。

へー、と私は笑う。

まるでカマキリみたいだ、と私は思う。
たぶん、カマキリの雄だって、雌に食べられながら『これは純愛だ』と思うんだろうな。

男ってやっぱりバカだな、と私は笑う。

●●

【ブログに載せるための文章案(3)】

●●


「これから幾つか失礼な質問をします。
 もし、答えたくなかったり、気分を害したときは手を挙げて下されば中断します」

鼻が丸くて真っ赤で小太りな中年の男性医者はそう前置きをし、るきにゃんの表情を細い目で舐めるように見る。
るきにゃんはいつも通りのぽわぽわの、でもちょっと眠そうな笑顔でこくんと首を縦に振る。

僕と茶絵にゃんは窓際の椅子に腰掛けて、二人の様子を観察する。
本当はこの『テスト』は他人が聞いてはいけないそうなのだけれど、るきにゃんは
『そう言われると逆に他人に聞かれたい』
と無茶を通し、僕たちは居心地悪いながらも聞く羽目になった。

「では、ひとつ目の質問です。
 男性について、どう思いますか?」
「……え?」

いきなりの意外な直球に、るきにゃんにるきにゃんらしからぬ戸惑いが走る。

「男性に対して、興味がありますか?」
「……男性について、多少は、興味があります」
「男性のどういったところに興味がありますか?」
「どういった……。……す、すいません。そんなこと、あんまり考えたことがありません」
「なぜ考えないのですか?」
「なぜ? ……なぜでしょう?
 例えば、私は個人的に、日本の伝統芸能である『能』にはあんまり興味がありません。
 興味が無いゆえに、なぜ興味がないのか考えたことがありません。
 それと同じような構造でもって、男性についても、なぜ、と言われてもわからないのです」
「へえ? いつものあなたらしく無いですね」
「……」

るきにゃんは黙ってしまった。
確かに、いつものるきにゃんらしからぬキレの悪さだ。

「こうなると、わたしはこうカルテに書かなきゃだめになりますね。るきあさんが男性について語るとき、
 過剰な『抑止』あるいは『防衛機構』が働くってね」
「『抑止』……?」
「そうです。るきあさんならわかるでしょう?
 これは心理的には『裏返し』なんです。
 るきあさんは男性について、興味がありすぎるんです。
 だから、逆に、語れない。語っても、異常なほど、言葉が少ない。
 なぜなら意識しすぎているからです」
「……」
「るきあさんは男性経験はありますか?」
「……ど、どういった意味ですか?」
「彼氏を作ったことはありますか?」
「……無いです」
「男の友達はいますか?」
「……いません」
「男の親類はいますか?」
「それは、います」
「彼らと自然に話せますか?」
「自然に? 私としては、話しているつもりです」
「話していて、楽しいと感じたことはありますか?」
「……無いかもしれません」
「なぜ?」
「……なぜ、と言われてましても……」

るきにゃんのキレが悪い。
というか、もうここらへんで止めてもらいたい。
これ以上、やられっぱなしのるきにゃんを見続けるのは僕たちの精神衛生上にも非常によろしくない。
けれど、このセクハラおっさんはるきにゃんを質問でいぢめ続ける。

「失礼かもしれませんが、るきあさんは16歳ですから、
 十分、大人ですね?」
「……大人という定義にもよりますが、まあ、大人かもしれません」
「性的な意味で、大人ですね?」
「……」
「るきあさん?」
「……なんでしょうか?」
「るきあさんは、いつもは、いっぱいしゃべってくれますよね?
 色んなことをね、何かの聞きかじりなのかもしれないけれど、とにかく『躁的』に話しますよね?
 でもね、性的な話題だけは口を濁しますよね?
 なぜですか?」
「……それは、私の語るべき内容じゃないからです」
「『語るべきじゃない』とは?」
「……あ、あの、先生はなぜそんなに性的な話題を追求するのですか?」
「言い忘れましたが、先生に質問するのは禁止です」
「……」
「禁止を破ったら、私はるきあさんにひどいことをするかもしれません」
「……」
「るきあさんの好きなタイプの男性を教えて下さい」
「……やさしい人が好きです」
「本気でそう思ってますか? 適当な、誰かが言った回答をコピーしてませんか?
 ちゃんとあなたの言葉で答えて下さい。いつもみたいに、しゃべりつくしてください」
「……その価値はないと思ってます」
「……では質問を変えます。るきあさんは私が好きですか?」
「……え?」
「るきあさんから見ればただのおっさんかもしれませんが、そんなおっさんは好きですか?」
「……す、好きとか嫌いとか、わかりません」
「こんなおっさんを気持ちよくしてくれませんか?」
「……え?」
「手を伸ばして下さい。手をこう、開いて。そう」
「……!」

おっさんはるきにゃんの手を掴み、自分の股間に擦りつけている。
るきにゃんは目をつぶってうつむいている。
生々しい衣擦れの音が病室に響く。

ちょ……。
な、なにやってんの、この人……?

おっさんはいきなり立ち上がる。
そして、僕たち二人を見て、手で払う。

『出て行け』

茶絵にゃんは立ち上がる。茶絵にゃんは震えている。
泣いているのかもしれない。息を殺している。
茶絵にゃんはおっさんの後ろを静かに通過し、静かにドアを開け、出ていく。

僕は……
僕は動けなかった。
僕はおっさんのズボンが妙に盛り上がっているのに気づいた。
その意味はわからなかった。
でも、何か、不気味な感じがした。異様な感じがした。

怖い感じがした。

その盛り上がりを、おっさんはるきにゃんの手に擦りつけていた。
るきにゃんの手は白くて細かった。
その繊細な手が、灰色のくすんだ布に擦りつけられて、汚されている気がした。

吐き気。
僕は息を深く吐いて、机に突っ伏して目をつぶる。

「……なぜ、出て行かない?」

その声は僕の頭上で低く鳴った。

「おまえも、こうされたいのか?」


●●

―――赤いボンバーマンの人生―――

赤いボンバーマンは言った。

「俺は最高最強のボンバーマンになる。
 今はまだ火力は弱々しいかもしれないが、今後どんどん俺は成長する。
 俺には向上心がある。目標があり、夢がある。
 世界一のボンバーマンになってみせる。
 この俺の志の高さに勝てる奴はいない。
 世の中のボンバーマン全員を平伏させてみせる。
 ……まあ、腰抜けのあんたはそこでまぬけ面して見ていればいいさ」

赤いボンバーマンはそう言い、戦場に飛び込んでいった。
30秒後、無駄にアグレッシブな動きを続けた彼は彼自身の仕掛けた爆弾の爆発によってあえなく死亡した。

しかしながら、彼は彼自身が口先だけの『よく吠える子犬』であることを自覚していた。
彼はそれが彼自身の実力と伴わない『勢いだけの言葉』であることを自覚していた。
彼はそういう滑稽な自分の実像に自覚的だった。
すなわち、彼は彼の『芸風』によって死亡した。

赤いボンバーマンは昔からそういう性格だった。

「俺は出来る奴なんだ。やれば出来るんだ。
 さあ、俺に仕事をやらせてみろ。完璧にこなしてやる」

と、ドヤ顔で公言するくせに、納期が近づいてくると、
『仕事が出来なかった理由』を一生懸命探そうとする。

忙しかった。
プライベートがどたばたしていた。
バイトが入った。
体調が悪かった。
上司のマネジメントが下手だった。
そもそも、俺が出来るレベルの仕事じゃないのに、やらせようとするあんたが悪いんだ。

「でも、赤いボンバーマン。自分でできるって言ってたじゃん。
 最強最高の仕事、するんでしょ?」
「うわ。昔の発言引っ張りだして、細かいこと言いやがる。
 くだらん揚げ足だ。性格悪いな、あんた。
 もうあんたとは仕事できない。
 あんたは一生、こんな狭いフィールドで仕事してりゃいい。
 それがお似合いだ」

赤いボンバーマンは、地獄に堕ちろ、と私にジェスチャーし、去っていった。
あれから3年。
全く成長してなかった赤いボンバーマンはその『芸風』ゆえに死亡。

人生は残酷だ。


―――白いボンバーマンの人生―――

白いボンバーマンはいつも他人に依存していた。

白いボンバーマンが登山を始めたのは友達に誘われたからだった。
ブログを始めたのも、mixi、twitter、モバゲー、GREE、その他、SNS各種、全部が全部、他人に誘われたからやり始めた。
MMOも。ドラムも。キーボードも。漫画描きも。
お願いされたから、マンションも買った。
頭金1000万円。月々58000円のローンも組んだ。
自分のスケジュールよりも他人の用件を優先した。
白いボンバーマンはいつもニコニコしており、いつも誰かの後ろをテクテク歩いていた。

白いボンバーマンはある意味『いい人』だった。
人脈があり、人望があった。
結果として多趣味となり、色んな知識もあった。

けれど、何一つとして、うまくいかなかった。
趣味はたくさんあったけれど、どれひとつとして深くやりこむということができなかった。
色んな知識も結局は全て、上辺だけの丸暗記に近かった。

なによりも、白いボンバーマンは一人では何もできなかった。
一人では何もする気が起きなかった。

そうこうしている間に、白いボンバーマンも年を取った。
仕事が忙しくなり、友達付き合いも減っていった。
そんな中、自分の手に残っているのは何か、と振り返り、何も残っていないということに気づいて愕然とした。

自分で登ろうとして登っていたわけじゃなかった『登山』は、もう何年間もしてなかった。
ブログの更新、各種SNSも完璧に止まっていた。
別に書きたい物は何もなかったし、書こうという気すらなかった。
音楽も。漫画も。ゲームも。
ありとあらゆる自分の中で『趣味』であったといえるもの全てが、外郭だけ残して消失していた。
知識もまた同じだった。
興味がある分野がないから、深く考えようという気も起きない。
知識はどんどん古くなり、風化していく。

白いボンバーマンは依存先を失い、転倒した。

寂しさを感じた。
色々とやってきたような気はするけれど、何一つ身につかず、ただの時間の浪費に終わっていたことを思うと、
背筋がぞっとした。
部屋の静寂さが身に染みた。
何もできない自分。
何かしようと思っても、何もする気がない自分。
せめて、誰かに命令されれば、動き出せるのに。
新しい依存先が見つかれば、楽になるのに。

5年ぶりにブログを更新しようとした。
けれど、何一つ、たったの一文字すら言葉が浮かばなかった。
何を書いたらよいのか、全く、想像すらできなかった。

6年ぶりにベースを弾こうとした。
昔、よく練習したあのフレーズ。
ベースから、音が出た。でも、それだけだった。
音楽になってなかった。ただ、音が出ただけだった。
全然楽しくなかった。

7年ぶりに漫画を書こうとした。
A4の白紙を前にした。ペンを持った。
それだけだった。横に一本、線を弾いてみた。
へろへろの線が描かれた。
頭の中にはなんのイメージもなかった。
ドラえもんを描いてみた。
まるで小学生が描いたようなドラえもんが描かれた。
妙に縦長の顔で、目は焦点があってなかった。

そんな白いボンバーマンも徴兵され、戦場に出ていった。
そして、敵の策略にはまり、無惨にも前後方向から焼かれて死亡した。

最初から死んでるみたい奴だった、と白いボンバーマンの指導教官はコメントしていた。


―――青いボンバーマンの人生―――

青いボンバーマンは女好きだった。

子供の頃から、青いボンバーマンはえろいことばかり考えていた。
どうすれば、えろいことができるか、気持ちよくなれるのか、そのことを延々と考えて生きていた。

中学2年の夏のことであった。
青いボンバーマンはサッカー部だった。
それほど上手くもなく、いつも2軍レベルに位置していた。
青いボンバーマンには気になることがあった。
それは練習中のグラウンドからいつも見える、『文芸部』の一人の女子生徒のことであった。
その女子生徒は胸が大きいことで有名だった。
そして、顔も抜群に可愛く、性格もよかった。
噂では、裏でグラビアアイドルをしている、とのことだった。
青いボンバーマンは彼女のことが気になっていた。
気に入っていた。
青いボンバーマンは彼女とえろい関係になることを妄想した。
具体的な細部まで妄想した。

そして、青いボンバーマンが不幸なのは、その妄想が成就したことにあった。

文芸部、部室。
彼女の紺色のスカートの一部に、青いボンバーマンの精液の痕跡が残り、黒く汚れていた。
彼女はティッシュで拭いた。
ティッシュの繊維が白く残った。
それを見て、彼女はサディスティックな表情で、青いボンバーマンに言った。

「舐めて、拭き取りなさい」

青いボンバーマンは犬のように舐めた。
そのとき、今まで感じたことのない情感が彼の全身を貫いた。
彼女は彼の膨張を牛の乳搾りのようにしごいた。

「2万円持ってきたら、また、してあげる」


歪んだ初体験は歪んだ人生を誘導する。
そんなことはない、いつでも人生は修正できる、と言う人もいるかもしれないが、
実際、頭は修正できても身体はそうじゃない。
人間は単純ではないが、ある部分においては非常に単純だ。

青いボンバーマンの人生観はここで大きく狂う。
青いボンバーマンは一度味わった快楽を忘れることが出来ない。
何度も味わいたいと思い、切望し、そのための代償の大きさを省みることがない。

人生は気持ちよさを味わうことにある。
彼はそう信じていた。
とにかくどん欲に気持ちよさを追求した。
今よりもっともっと気持ちよくなりたいと強く願望した。
頭が真っ白になるあの瞬間。
意識が飛んで全てがどうでもよくなるあの瞬間。
過去や未来なんてどうでもよく、退屈な日常なんてもちろんどうでもいい。

要求されるままに金を積む。
白いクスリにも手を出した。
彼女は決して飲まなかったが、彼女は彼がそれを飲んで狂う様を見ることをとても好んだ。
彼は金を手に入れるためにどんな悪いこともやった。
彼自身、それを悪いことだと思っていなかった。
彼は快楽を欲し、そのために必要なお金を欲しただけだ。
彼女はお金を欲し、狂っていく『観察対象』を欲した。

彼女は非日常を欲した。
でも、人がばんばんと死んでいくような小説は嘘くさかった。
いくらリアルに書いてあっても嘘くさく感じた。
彼女は文芸部で本を読みまくりながら、一つの自分なりの真実に到達した。
物語は嘘しか書いてない。
その嘘が本当のことをベースに書かれていたとしても、言葉になった時点で嘘になる。
100円が目の前にある、という文章があり、確かに目の前に100円がある。
でも、そういうことすら、本当とは思えない。
その100円は偽物かもしれないし、幻想かもしれない。
たとえ、本当にあったとしても、それがどうしたっていうのか。

非日常を欲する。
この現実で。目の前で。本当の現象として。
しかし、自分の手は全く汚さずに。
自分の身体は汚さずに。

ただ生きてるだけで、脳味噌がぐらぐらするような、非日常を欲する。

目の前の男は快楽に狂っている。
クスリに身体も魂もしゃぶられて、脳味噌がとろけている。
男は彼女の私物に欲情し、体液を垂れ流している。
獣のような声を上げながら、彼女に手を伸ばす。

「12万円」

彼女が言うと、男は12万円を出す。
その12万円が犯罪を伴うものであることを彼女は知っており、
いい加減この茶番が終わりに近づいていていることも知っている。

青いボンバーマンの快楽は彼自身の心の中だけで発火していた。
彼女は彼を見て、非日常とは結局のところ、このように、破滅をもたらすだけなのだろうかと懐疑した。
彼の中でだけ、世界は変容していた。
そんな彼に感情移入をして、彼女は破滅的な非日常を味わう。

なるほど。
わかりました。
快楽に溺れるっていうのは、こういうことなんですね。

なんだか、くだらないし、嘘くさい。

最後のクスリを飲んで、青いボンバーマンの命は燃え尽きる。
バランスの崩壊した脳内ホルモンはパルス波のような鋭角な極大値を描き出す。

彼女はその瞬間を想像する。
彼は快楽の最終形に辿り着いただろうか?
彼は満足しただろうか?

彼女は一通り想像した後に、ふと思う。

私の望む非日常は、これじゃないな。


―――黒いボンバーマンの人生―――

黒いボンバーマンの家は世界一のお金持ちだった。
政治力も世界一だった。
黒いボンバーマンの父親は世界を牛耳る財閥のトップだった。

その財閥は自動車、家電、軍事、インフラ、銀行、娯楽、IT、製薬、出版、マスコミ、医療、芸術、
ありとあらゆる業種において、その触手を伸ばしていた。
街を歩いて、彼の影響下に無いものは何一つ見つからなかった。

父親は彼に世界一の教育を施した。
俗に言う、『金持ちの坊ちゃん』風には育てなかった。
普通の人と自分たちの間に線引きをすることをせず、
本当の意味での帝王学を彼に施した。

物心ついたときには、彼は『立派な王子』になっていた。

彼に欲しいものはなかった。
欲しいものは常にすぐに手に入った。
しかしながら、ベタな挿話の一つなので詳細は省略するが、人の心はなかなか手に入りにくいことを彼は知った。
お金で手に入るものと、お金では手に入らないものがあることを彼は知った。

彼は世界を手中に収めていた。
けれど、それが表面的なことでしかないことを彼は知っていた。
彼は莫大な富を手中に収めていた。
けれど、それが彼自身を満足させることはないと彼は経験的に知っていた。
それはさらなる富を得たいという欲望を喚起させなかった。
彼は富以外の、富以上のものを欲していた。

金。
名誉。
権力。

それらは彼を全く満足させなかった。
量的なものではなく、概念として、彼を満足させないであろうと彼自身、思った。
では、いったい、何をどうすれば自分は満足するのだろうか、と彼は考え込んだ。

●●

彼はブッダの自伝を読んだ。
彼はブッダと彼の共通点をいくつも見いだした。
もちろん、それは境遇という点でのみの話だった。
けれど、なんらかのヒントがあるかもしれないと思い、ブッダとそれに関連する宗教を勉強した。
図書館で勉強し、宗教家を呼んで勉強し、宗教研究家を呼んで勉強した。

その結果、なるほど、と彼は思った。
わかりました、と彼は言い、宗教の勉強を終了した。
それ以降、宗教に関わることを彼は止めた。

金持ち特有の病気である『宗教狂い』になるのでは、と恐れていた周りの人はほっと胸をなで下ろした。
強いて言えば、坐禅を彼は好み始めたくらいだった。

それとて、別に趣味程度のものであった。
侍女が彼に「坐禅って何が面白いんですか?」とか「悟りを開くとかのためにやっているんですか?」と聞くと、
彼は「そういうためにやってるのではなくて、ただ坐禅ごっこしているだけです」
と言うのみであった。

ある日、脳科学者が彼の元を訪れて、坐禅の科学的な意味を説明した。
科学者は坐禅はセロトニン神経系を活発にさせる効果があると言い、隣にいた禅僧の機嫌を損ねさせた。
坐禅はそのような科学的に分析できるようなものではないと、禅僧は言った。
脳科学者は、もちろん科学的に分析できないものもあるかもしれないが、そのように効果の一端を説明できることを申し上げたかった、と言った。
彼は永久に続くであろう論争の始まりを予感し、まあまあ、とりあえずお茶でも飲みませんか、と言うのみに留めた。

●●

彼の保有するテレビ局で放送しているアニメが大ヒットしていた。
そのアニメは特に大きな事件が起きるわけでもなく、ファンタジーなわけでもなく、ただただ日常的な物語が丁寧な作画で描かれているというものだった。
彼はそれを見て、なんとなく、ヒットしている理由が理解できた。
けれど、それは言葉にできなかった。
キャラクタ、音楽、脚本、他のアニメとの相対的な立ち位置。
それら、批評家的な言葉たちは、確かにそれはそれで正しそうな気はしたが、何か大きな大切なものをつかみ損ねているような気がした。

彼はそのアニメを制作した会社のことが気になった。
そのアニメに出資した会社のことも気になり、
そのアニメの原作を出版した会社、制作者のことも気になった。
とりあえず、気になったことはとことん調べるのが癖である彼は、探偵を使い、報告を待つことにした。

報告の結果としては、特に驚くべきことはなかった。

そこでは普通の人が普通に働き、打ち合わせをして仕事を分担し、脚本を書いたり作画したり撮影したりしているだけだった。

だけだった、と書くのは、ちょっと変かもしれなかった。
大切なことは、何をしているか、では無いのかもしれなかった。
まるで魔法のような働きをする電化製品も、その製造ラインを見れば、特別なことをしているようには見えないように。
もしも、彼・彼女らが作るアニメに魔法が込められているとしたら、それはどのように作ったか、というところには見えないのかもしれなかった。

本当は彼はそれらの制作会社に出資しようかと考えていた。
けれど、それは間違えていた、と今は思った。
おそらく、触っていけないのだと思った。

何かを作るとは、そういうことではないのだ、と思った。
お金のために作るだけではない、もっと他の何かのために、彼らは作り上げ、そして放送するのだと思った。

ひとつの物語を作り上げ、その物語を楽しみに待ち、彼らの間で楽しさや幸せが共有される。
物語は確かに商品かもしれないけれど、それだけではない。
だから、そこには、彼のようなものが触れてはいけないのだ、と思った。

●●

透明なプラスティックのさいころを拾った。
なんとなく気になり、彼はそれを引き出しの奥に仕舞った。
しばらくして、それがひとりのメイドさんの持ち物であることがわかった。
そのメイドさんはその他大勢の普通のメイドさんだった。

彼はそのメイドさんを探し歩いた。
名前も所属も知らなかった。
ただ、ちらりとその横顔を以前見たことがあるだけだった。
何かを探しているような、俯いた顔。
色々な話の断片から、彼女がこのさいころの持ち主であろうことは間違いがなかった。

彼女は物置小屋の中にいた。
彼女は埃だらけの服で掃き掃除をしていた。
彼は彼女の側に駆け寄った。
彼女は目を丸くして驚いた。

「はい。サイコロ。届けにきたよ」

物置小屋は薄暗く、大きな荷物で埋め尽くされていた。
彼女は慌てて服を整え、埃を払った。
そして、あっ、と言い、彼の服の埃を払おうとした。
それが逆に彼の服を汚してしまう結果になり、彼女は顔を青くした。

「いいよ。気にしないで」

彼は笑い、物置小屋を出る。
外は明るかった。
視覚がその明度に順応するまでの短い間に、彼の腕は彼女の手に掴まれている。

「あ、あの、お礼を言わせてください」

その声は震えていた。
振り返ると、泣き顔の彼女がいる。

「このサイコロは、私にとって特別なもので……」

彼は彼女の髪の毛を撫で、埃を落とす。
彼女は目をぱちぱちさせて息をのむ。

「だから、その、どうお礼をしたらいいか……」
「お礼とか気にしないでいいから」
「で、でも、それでは、私、気がすみません……」

彼は歩き始める。
彼女はその後ろをとてとてと付いていく。
彼が建物の中に入ったとき、彼女は自身の身なりの悪さと他人の視線に気づき、足を止める。

埃ひとつ無い廊下。
彼は歩きながら、彼女に掴まれていた腕の、その感じを思い出していた。
彼女の瞳の色と、その蘭とした輝きを思い出していた。

なんとなく、心地よい感じがした。
最近、感じたことのない、満足感があったような気がした。
些細なことに幸せがある、だなんて、まあ、ベタなことだけれど、そう改めて思う。

服飾係のメイドさんが駆け寄ってきて、彼に着替えをさせる。
彼はこのメイドさんにはどうすればさっきの『サイコロ』のような親切ができるだろうか、と思う。
彼はメイドさんに直接的に聞いてみる。

「メイドさん、ありがとう。ところで、メイドさんは、どんなときに幸せを感じますか?」
「えっ!?」

メイドさんは困ったような表情で、しかし笑顔で、口元に手を寄せて考える。

「私の幸せは……、坊ちゃんが幸せを感じてくれるときです」
「僕は、いつも幸せだよ。……ごめん、嘘をついた。
 僕の幸せは、あなたが幸せを感じたときに感じるような気がします」
「……そ、そんな。こ、困りましたね。
 それじゃあ循環していますよね……」

確かにそうだ、と彼は笑う。
と同時に、彼はこれは面白いな、と思う。

家にはメイドさんがいっぱいいる。
いっぱいいすぎて顔も名前もわからない。
けれど、彼女らひとりひとりに、それぞれの幸せのかたちがあるんだろう。
それを叶えてあげられたら、面白いなと思う。
それは面白くて、しかも、なんだか幸せだなと思う。


「でも、何かあるんじゃないかな? メイドさん。夢とかないんですか?」
「夢、ですか……。では、ちょっと私事ですけど……」

と、メイドさんは話し始める。

「私、服のデザインがしたいんです。
 服っていうのは、ただ肌を隠して寒さ暑さをどうこうするだけではないんですよ。
 もちろん、ファッションとかおしゃれとかいう一面もあるんですけど、
 私としては服を通してその人のキャラクタをデザインしたいという意味があるんですよね。
 だから、こう、スケッチブックに服の絵を描いてみて、あー、この人はこういう服が似合うなとか、
 この課の人はみんなこういう制服だったらいいなとか思うわけです」
「へえ」
「ですから、私、将来は自分の考えた服を商品にして、お店を作りたいんですよね。
 お金儲けとかそういうのは出来なそうですけど、そういう自分の頭の中の世界を実物にして、もしもであれば、
 みんなに喜んで着ていただけたらなあ、と思います」
「なるほど」

●●

「……ということで、メイドさんのみなさんに連絡があります。
 今日から、勤務時間の50%を自分の好きな、本当にやりたいことに使ってください。
 資本が必要な人は申し出てください。事業計画などはまとめなくてもいいです。
 その自由な50%をあえてメイド業に使うのは禁止します。
 成果は全く問いません。好き勝手して結構です」

彼がそういうと、メイドさん達の間に衝撃が走った。
そして、じゃあ早速好きなことを、と動き始める人もいれば、何もできない人もいた。

彼はそういう、何もすることが思いつかないメイドさんのところに言って話をするのが嫌いじゃなかった。

「私、いざ、そんなことになると、何をしたらいいのかわからないんです」
「……別に事業をしようとか何かを作ろうとかじゃなくてもいいんだよ、メイドさん」
「……そんなことを言われると、こう、半日、ぽけーっとしてしまいます」
「自分自身で何かをすることがなければ、じゃあ、誰かのことを手伝うとかは、どうだろう?」
「……そうですよね……」
「でも、せっかく、自由な時間があるのだから、なにか、自分のために使ったらいいのでは」
「私のために……?」
「運動とか」
「……あんまり好きじゃないです」
「エステとか」
「……坊ちゃんのお金でエステに通っても、なんだか申し訳ないですし……」
「……じゃあ、たとえば、100万円拾ったら、何をしたい?」
「貯金します」
「堅実だね。でも、欲しい物はないの?」
「ないことはないですけど、でも、わざわざ買わなくてもいいかな、と思います」
「何かを作りたいとかは?」
「……そういう才能があればよかったんですけど……」
「……話は変わるけど、何をしているとき、幸せ?」
「……ちょっと恥ずかしいんですけど、ゲームしてるとき、幸せです」
「ゲーム?」
「MMOっていうゲームです。携帯電話で出来るんですけど、一種の大規模オンラインゲームですね」
「なるほど」
「一日働いて、全部終わったあとに、こう、ベッドの中で遊ぶんです。
 ちまちまとレベルを上げたり、仲間とモンスターを狩りに行ったり、部屋をデコレーションしたりするんですね。
 で、眠たくなったら寝るわけです。
 このときが幸せな時間ですね」
「……なんとなく、それはそういうときに遊ぶから面白いんだろうなと思います。
 きっと、ずっと一日中仕事みたいにやってると、あんまり幸せじゃないんだろうな、と」
「そうですね。寝る間際だから面白いんだろうなと私も思います。
 だから、せっかく頂いた時間にMMOをやるのは違うなあ、と思います」
「……MMOを作ろうと思ったことは?」
「……うーん。遊んでいる方が好きですね」
「じゃあ、半日ぽけーっとしてても、もちろんいいんだけど、それはあなた的にはどうだろう?」
「なんとなく、もったいない気がします」
「まあ、あれなんだね。まだ、自分のやりたいことが見つかってないんだね」
「そうかもしれません」
「それが見つかったときに、動き始めればいいんだと思う」
「……すいません。だめな子ですいません」

●●

「お金をください。50万円ください」
「いいよ。何をするの?」
「ゲーム制作会社を作ります。私とみっちゃんで共同設立します」
「よければ詳しく教えて欲しいな」
「私とみっちゃんはゲームが好きなんです。特に、ちまちました工芸品のようなゲームが好きなんですね。
 私は大学生のときから、プログラミングを勉強してきました。
 ゲーム制作を行った経験もあります。
 みっちゃんは絵を描くのが好きで、ほとんどプロ同様の絵を描くことができます。
 私たちはiPhoneとandroidをプラットフォームにしたカジュアルゲームを作ろうと思っています」
「なるほど。いいと思います。出資しますから、進めてください」
「ありがとうございます」

●●

「私は昔から漫画を描くのが夢でした。それも、こう、設定をとことん作り込んだ超複雑な物語が描きたかったのです」

メイドさんの目の前には、魔法陣のような線だらけの人物相関図があった。

「量子力学的な多次元世界での物語なので、時間の流れというのが可変なのです。
なので、キャラクタの運命の干渉が物語展開に大きく影響します。
それらの調整と解釈にすごく時間が掛かるのです」
「頑張ってください」
「はい!」

メイドさんは目を輝かせて再び線を引き始める。

●●

音楽。
料理。
自分磨き。
株式取引。
魚釣り。
遊び。
創作。
趣味。
自分探し。
ブログ。
運動。
旅行。
ボランティア。
政治活動。
宗教活動。
恋愛。
裁判傍聴。
合コン。
テレビ。

全てのメイドさんが自分自身のやりたいことをやり始める。
彼女たちらしい人生を歩み始める。
中には、メイドを辞めてもいいですか、という者まで現れる。
もちろん、それを拒むつもりは彼にはない。
メイドさんが幸せであるなら、それに越したことはない。

メイドさんが全員幸せになればいい。
彼はそう思う。

その人にとって好きなことをやるとき、その人は幸せなんだろう。
でも、やったあとで、後悔したり、後ろめたかったりするという類のものもあるかもしれない。
そういうものは、たぶん、どこか間違えているんだろう。
そういうものは、本当にしたい『何か』の代替だったりするんだろう。

心の奥底から、本当に完璧に、自分にとってしたいことをする。
代替でも次善策でもなんでも無く、もう、これしかないと思うことをすること。

おそらくはそれ以外に本当の幸せは無いんだろう。

だから、メイドさん全員が全員、各々にとっての本当の幸せを見つけられればそれでいい。
それが何よりの自分にとっての幸せだ、と彼は思う。

●●●●●●●●

僕は妄想の中で自分自身の文章の終わりに到達する。
そして、これらがもしも本当に『文章』になってブログになったらどうだろうか、と妄想する。

……うーん。
たぶん、なんか、ちょっと違うな。

僕の作りたいブログはもうちょっと、いい感じのブログなはずだ。

より永続的で、健康的で、建設的で、根源的な。

それがどのようなものなのか、まだ想像できない。
まだまだ全然到達できない。
でも、いつかは僕がその地平に立てる日が来ることだけは間違いない。

そしたら、そのとき、初めてブログを作ればいい。

そのときまで、僕には『液晶』なんて必要ない。




拍手ありがとうございますー

>しっかりトーセを抑えてくる辺りが通だと思います!

最近のトーセはちょっとアレかもしれませんけど、やっぱり外せませんw
外部からは開発部隊の全容が見えないだけに、こう、そそられます。

>にんじん食べて健康に!!

最近はにんじんを細切りにして生で食べるというのもなかなか美味しいなと思ってます。
最近、ブログ更新してないのは忙しいわけじゃなくて、ただの怠慢によるものです。
こう、何かやろうとすると、自分の頭の中から
『どんな判断だ。金をドブに捨てる気か』
と稲船先生の言葉が聞こえてくるので、なかなかやる気が起きませんw

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